第24回 デジタル/サイバー空間における「世論」――その問題状況、研究の最前線

2018年8月25日(土) 京都大吉田キャンパス 国際交流ホール

インターネットとソーシャルメディアの広がりで、「ジャーナリズム活動が行われ、世論が 形成される空間」、すなわち公共圏は、仮想空間にも広がった。新聞や放送、出版といった伝 統的なメディアに加えて、様々なインターネットメディア、ブログ、ポータルサイト、そして SNS上においても、「ニュース」が生産、流通、消費されており、そこでの動きが、既存の伝統 的なメディアにおけるジャーナリズム活動にも影響を及ぼし、またそれらの諸メディア間の相 互作用により、「世論」または「民意」が激しく爆発反応を起こすことも度々であったように 思われる。ときには、「フェイクニュース」がその動向を左右し、国内のみならず、国際政治 にも大きな影響を与えているという指摘もあるほどである。
こうした現象に関しては「インターネット民主主義」へのポジティブな期待もないわけでは ないが、ネット上で広がる「世論」の過激化現象を指摘する「集団分極化」や「エコーチェン バー現象」(C.Sunstein)、そして「フィルターバブル」(E. Pariser)といった負の側面に、 より多くの関心が集まっているような状況も見受けられる。日本では、いわゆる「ネット右翼」 現象やヘイトスピーチの広がりが注目されており、韓国でも「イルべ現象」(右派・極右傾向 のネット掲示板)や「保守」と「進歩」の対立の先鋭化などが指摘されている。
その一方で、サイバー空間における世論現象の広がりは、ジャーナリズムおよび世論の研究 にとって、理論的かつ方法論的な挑戦にもなってきた。環境変化に伴い新たに生じる事象を説 明するための理論的な模索が必要になり、新たに広がった空間における膨大な「言説」を「世 論」として把握するための様々な方法論的な試みが行われている。
以上のような問題認識の下で、日本マス・コミュニケーション学会と韓国言論学会が共同主 催する本国際シンポジウムでは、「デジタル/サイバー空間における『世論』:その問題状況と 研究の最前線」を題として、研究報告を募集します。この問題に関して、どのような学問的探 究が行われてきたのか、そして理論的・方法論的な対応はどのように行われてきたかを確認す ると同時に、日韓の比較の視点を交えて討論を行うことを期待しています。
さらに、今回は、急変する朝鮮(韓)半島を巡る情勢の急展開を受けて、日本、韓国、そし て諸外国のメディアにおける報道について考え、討論するために、ラウンドテーブル「激動す る朝鮮半島情勢とメディア」を企画しました。ご参加のほど、よろしくお願いいたします。

プログラム

日時:2018年8月25日(土) 会場:京都大吉田キャンパス 国際交流ホール

(9時から受付開始)
総合司会:小泉恭子(大妻女子大)
9時15分 開会 両学会長の挨拶
9時30分〜10時30分 共同研究の報告セッション
司会:内藤耕(東海大)

共同研究1 韓国における地域新聞の危機と競争力強化戦略に関する研究
吳杕泳(嘉泉大)尹熙閣(釜山外國語大) 鄭溶俊(全北大)

共同研究2 地域メディアとスポーツ―日韓比較研究
松実明(上智大)鈴木優雅(上智大)李宰豪(上智大)崔洛辰(濟 州大) 鄭溶俊(全北大学)

10時45分〜12時30分 第一セッション

司会:金山勉(立命館大)
報告1 インターネット公論場を現実的に記述するための理論的提案 元容鎮(西江大)
報告2 非マイノリティポリティクス~日本社会におけるネット世論の底流~ 木村忠正(立教大) 討論 渡辺武達(同志社大)李孝性(淸州大)

12時30分〜 昼休み (一階のカンフォーラというレストランでビュッフェ形式)

14時〜16時 第二セッション

司会 酒井信(文教大)
報告1 「ろうそく政局」におけるインターネット市民参加の転換的性格 李準雄(ソウル大)
報告2 ゲームをめぐる「世論」の形成と韓国のインターネットカフェ――世論とメディアを考えるために/考える前に 平田知久(群馬大)
報告3 インターネット空間における世論は民主主義を脅かすのか -「2ちゃんねる」と「イルベ」掲示板を事例として 金善映(筑波大・院生)
討論 中江桂子(明治大) 宋鍾吉(京畿大)

16時20分から18時 ラウンドテーブル 「激動する朝鮮半島情勢と日韓のメディア」 司会:黄盛彬(立教大)
パネル:金秀貞(中央大) 宋仁德(中部大) 洪景洙(順川鄕大)

鈴木弘貴(聖心女子大)森類臣(大谷大) 酒井信(文教大) 18時 閉会 韓国言論学会次期会長挨拶 李在鎭(漢陽大)

18時30分から 懇親会(国際交流ホール)

※ 非会員参加については、1日参加費3,000円(資料代含む。)とする。
※ 当日の懇親会は、会費制(3000円)とする。韓国言論学会からの参加者は招待。

ラウンドテーブル「激動する朝鮮半島情勢とメディア」

日時:2018年8月25日16時20分から18時 (100分)

会場:京都大吉田キャンパス 国際交流ホール

司会:黄盛彬(立教大)

パネル:金秀貞(中央大) 宋仁德(中部大)洪景洙(順川鄕大)鈴木弘貴(聖心女子大) 森類臣(大谷大) 酒井信(文教大)

言語:同時通訳または逐語通訳

形式: パネルによる問題提起に続き、討論及び質疑応答(タウンミーティング形式)

趣旨

朝鮮半島情勢が劇的に動いている。2017 年末までの一触即発の危機的状況は一瞬にして幻となったようである。2018 年は東アジアの地政学的構造が劇的に変わる転換点となるだろうか。 さる 2 月の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックは、IOC の後押しもあり南北朝鮮の和解が進む 舞台となった。南北選手の合同入場や聖火リレー、女子アイスホッケーの南北合同チームの結 成、そして様々な文化交流が行われ、南北和解の雰囲気が一気に盛り上がった。オリンピック によって急速に近づいた二つのコリアは、4 月 27 日には首脳会談を行い、朝鮮戦争の終結・平 和体制への移行・朝鮮半島の非核化などで合意する、「板門店宣言」を採択した。 その後、中 朝首脳会談が 2 回(3 月 25~28 日と 5 月 7~8 日)も行われ、また北朝鮮の特使が米国に派遣さ れるなどの目まぐるしい外交の動きが繰り返された末、6 月 12 日には、ついにシンガポールで 米朝首脳会談が行われた。両首脳は、戦争中の敵国という関係から、過去とは違う新しい関係 を目指すことに合意した。米朝合意文書は、板門店宣言を踏まえたものであり、朝鮮半島の非 核化・平和体制がうたわれた。
この一連の動きをめぐっては、様々な評価がある。米国メディアからも、批判的な意見は多 い。具体的な方策を欠いたままの典型的なメディアイベントいう冷ややかな反応もあれば、平 和への前進という意味で期待を込めて眺めている向きもある。日本のメディアでは、「拉致問 題最優先」という政府の立場や世論の動きもあり、他の関連当事国における論調とは異なる様 相も見られる。韓国メディアはというと、保守と進歩で分断されている政治状況を反映してい るかのような論調の分断も見られる。
本シンポジウムが開催される 8 月末までにも状況は動いていることが予想される。すでに、ト ランプ大統領によって「戦争ゲーム(war game)」と指摘された米韓による軍事訓練は、ほぼ 30 年ぶりに中止が決まった。7 月末にも「終戦宣言」が出される可能性があるとの指摘もある。 硬直していた日朝関係も前進することになるのだろうか。東アジアに残存する冷戦構造が解体 され、平和体制が構築されることに繋がるのだろうか。
以上のような状況認識の下、日本マス・コミュニケーション学会と韓国言論学会が共催して 行っている日韓国際シンポジウムにおいても、激動する朝鮮半島情勢を取り上げ議論すること は喫緊の課題であると言っても過言ではないだろう。特に、両国のメディアが、北朝鮮を取り まく東アジアの情勢―南北朝鮮関係・米朝関係・日朝関係・中朝関係など―をどのように報道 し論評しているかをお互いに紹介し、論点整理・議論することは、「他者感覚」を養い自国中 心的な発想を見直すことに資するであろうし、また自国の中の「政治対立」または「メディ ア・フレームの分裂」がいかにこの地域を取り巻く国際情勢とも絡み合っているのかを把握す る機会を提供できれば、と考えている。