第38期第8/11/13/15/19/20回連続研究会「本土復帰50年とメディア〜沖縄のいまを学ぶ(第1〜6回)」(ジャーナリズム研究・教育部会)【開催記録】

■企画趣旨:
2022年5月15日、沖縄は本土復帰から50周年を迎える。観光立県を果たした沖縄は米軍施政下にあった復帰前に比べ経済は成長し、教育や交通機関など社会資本は整い、本土との交流も格段に進んだ。だが依然として残る経済格差、変わらない重い基地負担や自己決定権の不在など横たわる溝は浅くなく、ときに「沖縄は本当に復帰したのだろうか?」とのつぶやきが漏れる。沖縄戦、27年間の異民族統治を経て復帰した沖縄が歩んだ50年はいかなるものであったか、その結果いかなる課題が現在に積み残されているのか、それをメディアはいかに報じてきたのか、あるいは報じるべきなのか。そして経営や報道体制においてメディアの現状はどうなっているのか?県民の意識はどのような模様を成しているのか?

重層的なテーマを連続的なオンラインによる研究会で積み上げ、2022年秋季大会のメインシンポジウム(沖縄開催を計画)での議論に結びつけていく。

【第1回】
■日 時:3月27日(日)15時から17時30分
■登壇者:前泊博盛(沖縄国際大学)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

第1回は「激動する基地問題と報道の現実」と題して、前泊博盛・沖縄国際大学教授が報告した。米軍・自衛隊が連動して軍事要塞化する南西諸島、追いつかない報道、読者の変化といった観点から、地元紙の逼迫を議論した。2月にロシア軍によるウクライナ侵攻が起こり、戦争勃発の蓋然性が意識される中、台湾を巡る中国とアメリカの緊張の最前線として沖縄に注目が集っていた。

ウクライナ取材から帰ったばかりの金平氏のリポートに続き、前泊氏は自分の研究室の窓から見える米海兵隊普天間飛行場の風景の急激な変化を枕に、日米合同訓練が強化され、先島の自衛隊基地にミサイル配備が進められる状況を語りながら、他方で日米地位協定の不平等の放置など占領政策が継続されているかのごとき沖縄に関する日本のメディアの取材不足などを指摘した。

歴史的事例も含め膨大な情報量の講演は予定時間をこえ、参加者からの質問やコメントも活発であった。参加者は110名。

【第2回】
■日 時:4月17日(日)14時から16時
■登壇者:平良いずみ(沖縄テレビ)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

第2回は「基地と環境破壊と女性たち」との題で、沖縄テレビ・キャスターでディレクターでもある平良いずみ氏が報告した。米軍で使われる有機フッ素化合物PFASによる土壌や飲み水の汚染、新たなサンゴ礁の破壊(辺野古・浦添)など基地による環境破壊を訴える女性たちのネットワーク活動を議論した。

冒頭、司会者が平良氏の過去のドキュメンタリー作品の紹介も含めてプロフィールを紹介、その後平良氏から、本土には伝わらない基地問題の苦悩はどうしたら「自分事」に変えて共有されるか、試行錯誤していることが語られた。その近作『てぃんさぐぬ花 ママたちの沖縄戦』の短縮版をコンテンツ共有、米軍基地から排出されたと思われる有機フッ素化合物PFASによる水汚染の実態と、不安を感じて調査と原因究明を行政に訴えている子育て中の女性たちの活動に密着する狙いを語った。

「基地問題を安全保障や経済だけではなく、“命・暮らしの問題”としてとらえる」姿勢に参加者からは共感が寄せられ、「本土や国際社会とも共有しよう」などの声も上がった。参加者は72名。

【第3回】
■日 時:5月22日(日)16時から18時
■登壇者:仲里効(地域オピニオン誌『越境広場』編集者、批評家)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

第3回は復帰記念日の式典が終わって1週間後の5月22日(日)、「『復帰』とは何であったのか」との題で地域のオピニオン誌『越境広場』の編集者で批評家の仲里効氏が報告した。復帰50年の節目は、「復帰」の内実を問う、実質的にはラストチャンスに位置付けられる。いわゆる「復帰世代」の視点を踏まえ、沖縄の構造的課題とメディアの在り方を議論した。 

復帰当時、東京の大学に「留学」していた仲里氏は基地の存続を認めた沖縄返還協定に反対する運動に参加、協定を批准するいわゆる「沖縄国会」の議場で爆竹を鳴らして抗議した沖縄の青年たちの行動にも関わっていた。その“事件”を直近の『報道特集』で伝えた金平氏との対話形式で、「復帰」50年の報道のあり様や、本土メディアは触れないが、沖縄の在野では議論が再提起されている「反復帰論」の今日的な意味について掘り下げた。参加者は88名。

【第4回】 
■日 時:7月3日(日)14時から16時
■登壇者:西銘むつみ(NHK)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

第4回は沖縄戦の戦没者を悼む「慰霊の日」から10日後の7月3日(日)、「沖縄戦報道の継続と変質」をテーマに、30年近く沖縄戦報道に携わるNHK沖縄放送局の西銘むつみ記者が報告した。

那覇市の激戦地跡で生まれ、戦争の傷跡に触れながら育った「前史」を振り出しに、直近の慰霊の日に摩文仁の「平和の礎」で取材する様子のVTRを共有。戦争体験者が高齢化し、他界する人も増える中で記憶の継承が困難な時代に入ったことを語った。また本来は語りたくない過酷な体験を語ってもらう時の葛藤を報告する際には涙を流して話し、参加者たちのさらに深い議論を促した。そして、本土の放送局であるNHKの中で、数少ない沖縄出身者として、沖縄の思いを伝える時の壁の高さも率直に語った。参加者は65名。

【第5回】
■日 時:8月7日(日)10時30分から12時30分
■登壇者:銘苅一哲(沖縄タイムス)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

第5回は「自衛隊という存在と向き合う」とのテーマで沖縄タイムスの銘苅一哲記者が報告した。50年前、「復帰」とともに沖縄に進駐した自衛隊は、沖縄戦における日本軍の記憶もあって住民の強い拒否反応に遭遇した。しかし救命活動や地域社会への貢献が評価され、いまや世論調査で8割を超える県民が支持する存在となった。米軍との一体化が進んで頻繁に合同演習が行われ、宮古・八重山には中国をにらんだミサイル基地が建設されて先行きは不透明さを増す中、メディアもタブー視してきた自衛隊に1年間の連載で迫った記者が、大きかった反響もふくめ報道を通じて見えてきた世界を語った。

冒頭、ウクライナのキーウにいる金平氏が、戦争プロパガンダに席巻された現地メディアの状況をVTRを共有しながら伝えた。「復帰」の11年後に生まれ、39歳の銘苅氏は、長年タブーとされ、報道もあまりなされなかった自衛隊を1年かけて取材し、40回に渡って連載しようと思った動機から話し始めた。

復帰直後の県民の拒絶反応や、その陰で沖縄出身の自衛隊員たちが抱いていた思いなどを関係者から丹念に聞き取り、その後の県民の意識の変化や、昨今の米軍との一体化・基地の日米合同使用の実態にも迫った取材の裏側を語った。また参加者には県内2紙の記者OBもおり、活発な意見交換が行われた。参加者は52名。

【第6回】
■日 時:9月18日(日)14時から16時
■登壇者:山城紀子(ジャーナリスト、元沖縄タイムス記者)
■対話者:金平茂紀(TBS)
■司 会:七沢潔(NHK)

最終回の第6回は9月18日(日)、「沖縄社会の隠れた実像を伝えて」をテーマに、元沖縄タイムス記者でジャーナリストの山城紀子氏が報告した。

復帰2年後に沖縄タイムスに入社した時、女性記者は現場に2名しかおらず、ずっと婦人欄を担当させられた話から説き起こした山城氏は、同じ職場の男性がいかに無意識に女性差別をしていたかを語りつつ、障害者の世界に取材に入ると自分もまた無意識の差別者であることを思い知ったという。タブーとされる精神障害者を追い半年間の連載となった「心病んでも」の記事のPDFを共有しながら語る内容は、患者の半強制的な長期収容という今も変わらない現実に繋がっていた。外からは助け合いの精神(ユイマール)が賛美される沖縄社会にある暗部と、そこに声を顰めて沈黙を余儀なくされる人々がいることを訴え続けた山城氏のジャーナリスト精神をも含め参加者たちの討論が行われた。この日の参加者は48名であった。

※本連続研究会は企画とコーディネイト、司会を部会幹事の七沢潔、各回の講師との対話者を金平茂紀理事が担当し、ZOOMの技術面などを澤康臣部会長が担当した。