■日 時:2023年4月22日(土)15時から17時
■場 所:専修大学神田キャンパス 1号館1階107教室
※会場都合により専修大学ジャーナリズム学科との共催
■キーワード:取材の自由 記者会見 オフレコ 記者クラブ
■問題提起者:中田卓二(毎日新聞)
■討論者:韓永學(北海学園大学)
■司 会:山田健太(専修大学)
■開催趣旨:
首相官邸における官房長官や首相の記者会見は、二代前の安倍晋三政権時代から議論の的となってきた。とりわけ、1社1人1問という会見スタイルはその後の官邸会見の「定番」ともいえる状況にもなり、記者のあいだでも厳しい批判があるものの、一方では会見における一定の秩序を求める意見などもあり、定番のスタイルとなりつつある状況だ。さらには、新型コロナウイルス感染症の影響で、出席できる記者数も限定され、テレビ画面に映し出される会見場のまばらな記者群と、官邸玄関ホールのぶら下がり取材時の蜜状態を比較すると、その差が際立つ状況にもある。
こうした記者会見は、かつてより原則としては記者クラブの主催、もしくは取材先機関との共催とされてきたものの、実態的にはその進行等も含め、取材先=官邸に大きくバランスが傾いた状態と言えるのではないか。その結果、官邸主導の会見スタイルが定着しているともいえ、それがこの国の政治とメディアの関係を象徴しているとの指摘もある。この根底には、取材の自由の法的な担保が弱いことがあるわけで、政治家の側には取材を応諾する義務がないばかりか、むしろ取材をコントロールするのが当然という空気さえ漂っている。
そうしたなかで2023年2月には、首相秘書官のオフレコ取材における発言の報道をめぐり、報道界でもその賛否が分かれる事態が起きた。いわゆるオフレコ取材の在り方は、1995年以来、報道界でも議論が続いてきた問題であるが、今回改めてオフレコによって何を守るのかをジャーナリズム倫理として考える機会となった。同時にそれは、取材の自由の法制度上の位置づけを考える機会にもなるはずだ。さらにいえば、かつての「書かない大記者」と称された政治部記者のありようは、取材過程における透明性が求められる今日において、どのような評価の対象となるのか。
この議論を進めるうえで、報道界から政治取材の経験が豊富な毎日新聞の中田卓二・政治部長に問題提起をいただき、これを受けて、当部会で以前、北海道新聞記者逮捕事件で法的課題を報告した韓永學教授に改めて登壇いただき、議論を掘り下げることとしたい。司会は、会場校として山田健太が担当する。
【開催記録】
2023年2月、オフレコを前提とした取材での元首相秘書官による差別発言が実名で報じられたのを機に、取材や報道の自由、国民の知る権利などへの関心が高まっている。研究会では、はじめに中田さんが、オフレコを解除して実名報道するに至った経緯を説明。その後、「日本の政治取材の大半はオフレコで行われる」と現場の実情を紹介し、功罪併せ持つオフレコ取材のあり方について問題提起した。
これを受けて、メディア倫理法制が専門の韓教授が、国民の知る権利に照らして正当性があればオフレコ解除は許容されるとの見解を示した。また、民主主義社会において取材の自由が最大限保障されることの重要性について説いた。
注目度の高いテーマということもあり、学生や教員、メディア関係者など70人近くが参加。登壇者と参加者の間で、オフレコ取材の是非やメディア教育などについて活発な意見交換も行われた。話はBPOなど報道界の苦情対応・自主規制機関の在り方にも及び、読者・視聴者とメディアの間の信頼関係の構築につき、大きくの意見が出された。
また、参加した専修大学の学生からは、「授業ではなかなか知ることのできない現場の話を聞けたのは新鮮であり、今後より深く学びたいと思うきっかけになった」「メディアと政府、メディアと市民の関係について深く考えさせられた」と感想を寄せられ、こうした研究会を通じメディアの現場に空気に触れてもらう大切さも感じさせられた。
コメントをする韓教授 右が中田編集局次長
参加者との意見交換の様子