■日 時: 2023年12月15日(金曜日) 開始時刻18時~終了時刻20時
■場 所:東京大学(本郷キャンパス)、オンライン [教室、リンクとも登録のメールで後ほどお知らせ致します]
■報告者:モビーン・アザー(ジャーナリスト、BBC「Predator: The Secret Scandal of J-Pop」Reporter)
■討論者:李美淑(大妻女子大学)
■司 会:藤田結子(東京大学)
■企画趣旨:
本研究会は、ジャニーズ性加害問題におけるメディアの責任について検討し、議論することを目的とする。ジャーナリストのモビーン・アザー氏を迎え、日本のメディアの対応や報道姿勢、今後の改善点などについて聞く。
まず、BBCドキュメンタリーの制作過程及びその後の反応にみえる日本のジャーナリズムやメディア業界における「人権意識」のあり方を検討する。ジャーナリズムが「性暴力」などの人権被害問題をどのように扱ってきたのかは、その社会の人権感覚の構成要因となる。海外ジャーナリストの経験や観点から、日本のジャーナリズムやメディアにおける改善点を探る。
次に、主要メディアが性加害を認定する裁判所の判決(2003年)をほとんど報じず、性加害を持続できるよう手を貸してきた原因や背景を探る。日本のジャーナリズムが「発表ジャーナリズム」とも批判されるのは、政府機関、検察、警察の動きを基準にニュース価値を判断し、権威のあるソースに頼ってきたという問題意識からであろう。また、ジャーナリズムという理念よりメディア企業の営業本位の姿勢が中心にあるとも批判される。そこで、ジャニーズ性加害問題においてはどうだったのかを検討し、再発防止のための課題を確認する。
最後に、ジャニーズ性加害問題に関するメディアの責任はどのように果されるべきか検討する。事務所の記者会見が毎回中継されるなど、メディアの熱い関心が注がれるなか、それを報じることだけでメディアの責任が果たされたとは言えない。海外ジャーナリストの経験や観点を踏まえながら、いまメディアが果たすべき役割を確認する。
以上の点について、実務的、学術的な見地から、フロアを交えて議論を行う。言語は英語と日本語を併用する。
■Date: Friday, December 15, 2023 Start time: 18:00 - End time: 20:00
■Place: The University of Tokyo, online [We will inform you of the room for in-person attendance and send the Zoom link to your registered email in due course.]
■Presenter: Mobeen Azhar (Journalist, BBC’s “Predator: The Secret Scandal of J-Pop” Reporter)
■Discussant: Mi-Sook Lee (Otsuma Women's University)
■Moderator: Yuiko Fujita (The University of Tokyo)
■Objective of the Seminar:
This seminar aims to investigate and discuss the responsibility of the media concerning the sexual assault issue at Johnny’s & Associates. We will host journalist Mobeen Azhar to understand the stance, responses, and areas of improvement for the Japanese media.
Initially, we will assess the state of human rights awareness within Japanese journalism and the media industry, as evident in the production process and subsequent reactions to the BBC documentary. Further, we will delve into why major media outlets scarcely reported on the court’s decision (2003) confirming sexual misconduct, thereby indirectly aiding its perpetuation. Within this context, we will discuss how the Johnny’s sexual abuse issue was addressed, identifying measures for its prevention.
Lastly, we will look at how media responsibility concerning the Johnny’s sexual abuse issue should be executed. While press conferences by the agency are regularly broadcasted, garnering intense media attention, merely reporting on them doesn’t equate to fulfilling media responsibility. These discussions will incorporate both practical and academic perspectives and involve participation from the floor. Both English and Japanese will be used for discussion.
【開催記録】
■記録作成者:藤田結子
■参加者:約150名(会場+Zoom)
本研究会では、はじめに李美淑氏から趣旨説明が行われた。つぎに、李氏からモビーン・アザー氏に日本語で質問が投げかけられ、通訳の田村かのこ氏が英訳し、アザー氏が答える形式で進められた。
第1に、日本のメディアの人権感覚や価値観、また、欠けている点について質問がなされた。アザー氏はまず、日本の社会とジャーナリズムに対して敬意を述べた。そして、この性加害問題においては、日本社会で大切だとされる「礼儀正しさ」が障害になったと話した。とくに性加害のような極めて不快な問題をめぐっては、この傾向が顕著であると指摘。また、自己検閲によって、真実を伝えることが妨げられたと語った。
第2に、李氏は、発表ジャーナリズムが旧ジャニーズ性加害問題にどのような影響を与えたのか質問した。アザー氏は、発表ジャーナリズムは日本だけでなく、英米でもみられると指摘。また、本問題に関しては発表ジャーナリズムだけでなく、旧ジャニーズ事務所が圧力をかけたことが大きく影響したと述べた。
第3に、李氏はイギリスと日本の編集権の違いについて聞いた。アザー氏は、イギリスではメディアが国家やビジネスから独立していることが理想とされているが、現実には問題が多いと指摘。日本では、記者が政治家や経済界と密接な関係を持つことが一般的で、真実を報道するうえで障害になっていると見解を述べた。
第4に、李氏は、日本のメディアの沈黙と責任、およびBBCのジミー・サヴィル事件後の対策について聞いた。アザー氏は、まずBBCでスタッフへの指導強化や、子どもとの接触のルールの導入がなされたと解説。つぎに、BBCで働いたことのある全員に情報やカウンセリングが提供され、さらに、広範な独立調査が行われて結果が公開され、これらによってメディアの変化が促されたと説明した。ジミー・サヴィルの事件は、単なる特別な事例ではなく、メディア業界全体、とくにジャーナリズムの慣習が変わるべきであり、日本でも同様の変化が必要だと述べた。この事件はイギリスのメディアに深い影響を及ぼし続けており、完全な解決には時間が必要だと話した。
その後、フロアからの質問を受けつけた。1つめの質問は河原理子氏から、被害者のインタビューをどのように扱っているか、とくにトラウマに関わる話題、取材協力者との関係について問われた。アザー氏は、BBCの部署を通じて日本でカウンセリングを提供するための準備を行い、すべての取材協力者に必要に応じてサポートとカウンセリングを提供したと語った。また、取材協力者との関係をパートナーシップとみなし、編集中も放映後も良い関係を維持することが倫理的で良い実践だと答えた。
2つめの質問は、辻泉氏から、旧ジャニーズのファンダムについてであった。アザー氏は、被害者への共感と人間性を欠くファンの問題について、BBCや日本のプレス、ジャーナリストがこの話題を追求することは重要だと話した。
3つめの質問は、周東美材氏から、戦後の日本でアメリカ占領軍が児童や女性に対する性加害を行っていた状況と、ジャニー喜多川の性加害問題が似た構造であるという点についてである。アザー氏は、植民地主義などからアジアでは欧米への憧憬が存在することと関連していると指摘。ジャニー喜多川とアメリカとの関係が、彼が罰されることなく性加害を続ける一因となっていたと述べた。
最後に、アザー氏は、ジャーナリスト独自の特権的役割は権力者に責任を問うことだと強調した。記者は同僚や編集者と議論し、下された決定に対しても異議を唱えるべきで、不快に感じるときでも発言し報道することが真のジャーナリストの仕事であると述べた。そして、皆さんがそのような報道を続けることを願っています、と研究会参加者に向けてエールを送った。 以上のように、学術的・職業的な観点から、ジャーナリズムと旧ジャニーズ性加害問題について有益なインタビュー、質疑応答がなされた。多数の会員・非会員が参加し、非常に意義ある研究会となった。