「日本メディア学会」への名称変更にあたって(2022年1月1日)
日本メディア学会
会長 伊藤 守
2022年1月1日をもって本学会は「日本メディア学会」に名称変更しました。
今回の名称変更は、もちろん急速かつ広範囲にわたるメディア環境の変化をふまえたものと言えますが、たんに外的環境に規定されたものであると考えることはできません。むしろ、現在の歴史的な変化のもとで、これまで対象としてきた研究領域や研究方法を見直す必要性をふまえた、内在的な理由に因るものであると考えるべきでしょう。人工知能があらゆる社会領域に実装され、ヴァーチャルな空間上におけるグローバルなコミュニケーションの重要性が格段に高まり、多様なメディア文化が展開されるなかで、研究上の新しい視点や方法を開拓していく必要があるからです。
言うまでもなく、メディア研究ないしメディア学は、M.マクルーハンやR.ウィリアムズやF.キットラーの名前を挙げるまでもなく文学や歴史学など人文学の伝統を一つの系譜として発展してきました。また一方で、現在の大学の教育研究機関において「情報メディア学科(専攻)」といった名称が採用されていることに示されるように、メディア学は情報学/情報工学と近接する学問分野として展開しています。
「日本メディア学会」は、これまでの社会科学(政治学、社会学、法学、ジャーナリズム論、歴史学/メディア史、社会心理学)をベースとした研究の蓄積を発展させつつ、上述の人文学の知や情報学/情報工学の知を吸収しつつ、3つの学問分野をクロスさせながら、<メディアの知>を豊かに形成していく責務とともに、民主的な社会とそれを担う多くの市民に対する社会的責任を果たしていかねばなりません。
学会名称の変更を一つの契機として、会員の方々の益々の研究の発展と共に、各専門分野でメディアに関心をもって研究を進めておられる多くの研究者の参加を大いに期待します。
2022年1月1日
日本マス・コミュニケーション学会
会長就任にあたって(2021年6月28日)
日本マス・コミュニケーション学会
会長 伊藤 守
春の大会総会で会長職に選ばれました。38期の理事の皆さんと共に、大きな改革の時期に学会のかじ取りを担うことになりました。微力ですが力を尽くしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
今後の学会の方向について、私の考えを簡潔に述べたいと思います。
大会総会では、学会名称を「日本メディア学会」と変更する提案が決まりました。これを受けて、この夏に会員による投票をおこない、その結果、会員の方々に報告できるように進めたいと考えています。多数の賛意を得られ承認されれば、本学会は正式に「日本メディア学会」となります。
「日本新聞学会」が発足してからちょうど今年が70年、「日本マス・コミュニケーション学会」に名称変更してから28年が経過したなかでの今回の名称変更は、単なる「名称変更」にとどまるものではない、と考えます。より主体的に言えば、日本におけるメディア研究をより一層活性化するために、学会の実質的な改革、学会のアイデンティティにかかわる重要な転換点となるよう努める必要がある、そのように私は認識しています。
いま、「重要な転換点につながる」と述べましたが、この点については、正式に名称変更が承認された際に、秋の大会であらためて学会の方向性をお示しすることとして、38期の理事会が対応すべき課題を指摘します。
第1は、東アジアそして欧米のメディア研究者との研究交流を積極的に進めることです。コロナ感染の拡大のなかで、大会運営、各種の研究会がオンラインで実施され、オンラインによる研究者間の交流、海外の研究者との交流が容易に行えることを実感する機会となりました。この経験を活かして、継続的に海外の研究者との研究交流を進めることを学会として積極的にすすめます。
第2は、ダイバーシティの推進です。この間、佐藤卓己元会長、吉見俊哉前会長のもとで、若手研究者のアクティビティを高めるための施策が行われてきましたが、それを継承するとともに、女性会員や留学生そして外国籍の研究者が活躍できる場をこれまで以上に創出して、より積極的に意欲的に研究できる環境を提供することです。それは、従来の研究方法や研究視点を継承しつつも、新しいアイデアや新しいアプローチを積極的に提起し、それを研究成果に高めていける体制づくりに寄与するはずです。
第3は、学会大会や各研究部会の研究会に参加し、報告することの魅力や価値を高めていく工夫です。1200人規模の全国学会として、春秋の大会の個人報告数がきわめて少ないと言わざるをえない状況にあります。この問題を打開していくためには、あらたに入会された会員や中堅・若手の研究者がこれまで以上に、積極的に活動したいと思える研究会を企画することや、「私の研究もこの学会なら報告できる」と思える、学会の領域横断的な魅力を内外にアピールしていくことが重要でしょう。難しい課題ですが、会員からのご意見もふまえ、理事会ではこの問題の解決にむけて積極的に議論していくつもりです。
第4は、学会の名称変更にもかかわることですが、いま申し上げた「学会の領域横断的な魅力」を押し広げていくことです。これまでこの学会のアイデンティティの柱の一つは、現場の実務家やジャーナリストと研究者との対話、法学、政治学、社会学、社会心理学など各専門分野を超えた交流という、まさに専門領域を超えた様々な知の対話にあったと思います。
学会の名称変更がなされた際には、それに加えて、人文学におけるメディア研究者や、AI社会といったテーマを批判的に考えるためにも情報学分野の研究者にも本学会の魅力をアピールして、より幅広い対話の空間を組織することが可能となるでしょう。
さらに強調したいのは、TVや新聞社といった既存のメディア以外の機関で、デジタル技術を活用したメディア文化の創造や、新たな媒体を活用してニュース・情報発信を実践している方々にも門戸を広げて、学会がカバーする研究のフィールドを広げていくことも必要です。既存の枠にとどまることなく、この学会のフィールドをより拡大することです。こうした課題にも目を配り、新しいアイデアを出しながらすすめていくつもりです。
以上、4つの課題を着実に進めるべく、4年、6年という中期的な展望を念頭に置きながら、学会運営をおこなっていく所存です。これまで以上に、会員の方々のアクティビティを高められるような学会運営を行っていきたいと考えています。今後とも、会員の方々の積極的なサポートを心からお願いいたします。
2021年6月28日