【レポート】2020年度秋季大会 2020 Autumn Conference Report

10月10日から11日に、2020年度日本マス・コミュニケーション学会秋季大会が開催されました。本来は成蹊大学にて行われるはずでしたが、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない中、大会プログラムはすべてオンラインでの実施となりました。両日あわせて296名という、例年に比べて多くの方々にご参加いただきました。今年度は同じ理由で春季大会が中止となり、一部の希望者の方の研究発表会をオンライン試行しましたが、会員の方からはオンライン開催は遠方からの参加のハードルを下げる面があるという声が聞かれました。今回の盛況の背景にもオンラインによる参加のしやすさはあったように思われます。

従来は個人・共同研究の発表のみ同時進行で行われてきましたが、今大会からは会期中により多くの研究活動が報告され、また議論されることを目的に、個人・共同研究に加えてワークショップも同じ時間帯で開催されました。この変更は秋季大会を対面で開催した場合でも予定されていたものでしたが、図らずもオンライン開催と新たな試みが重なりました。どの発表でもワークショップでも常時20人以上、最大では50人を超える参加もあったようです。

この秋季大会では、2名の博士課程の会員の方に大会レポーターという立場でのご参加をお願いし、それぞれの視点で大会を俯瞰した記事を書いていただきました。オンラインでの学会取材という、想像以上に難しいタスクに挑戦してくださった、東京都立大学大学院の片倉葵さんと日本大学大学院の山田尚武さんに改めて御礼申し上げます。お二人の取材にご協力くださった皆さまにも感謝いたします。

[秋季大会1日目(10月10日)]

◉台風が日本列島に接近するなか天候を気にすることなく,オンライン会議ツールZoomを利用した大会が定刻通り開始しました。私が参加したワークショップ3は唯一問題提起者と討論者の両者が実務家であり,参加者からはコロナ禍における影響を含め実務家による報告はとても参考になるといった感想や,広告とPRを同時に取り上げた意義と質問者の指摘のレベルの高さが評価され,研究者と実務家の交流を深めた有意義な時間でした。

午後の部は吉見俊哉会長の挨拶から始まり,続く学会名称に関する懇談会では,土屋礼子理事の司会で3点の議題を討論しました。優秀論文賞受賞者の太田奈名子さんの意見を皮切りに,研究者・実務家問わず様々な視点から意見交換がなされ,委員会の丁寧なプロセスに対する評価も見受けられました。シンポジウム1は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって変容しているメディアのあり方を再度問い直す旬な論題でした。シンポジウム後,フロアに残った会員はオンラインのメリットを踏まえた上で対面との差異を振り返りながら懇親会がオンラインでもできないか等,今後の学会のあり方について前向きに談議しており,和やかに1日目が終了しました。(片倉)

挨拶をする吉見俊哉会長。

◉大会初日の個人・共同発表1では、新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、ウィルス拡大や地震を含めた災害に関する不確実性やリスクに対するメディアの役割や課題に関して報告が行われました。午後のシンポジウムではリモートワークが個人の生活や取材と報道、出版などに与えた影響、とりわけオンラインの課題に関する議論が行われました。特に記者の取材対象や記者間との関係構築の難しさ、記事の質の低下に関する懸念は、コロナ禍のリモートワークによって生じた課題の一つです。

オンラインでの学会報告について報告者の方々に感想を伺ったところ、学会のアクセスや報告準備の利便性が指摘された一方で、登壇者と参加者との間の対話、情報共有に課題があるように感じられました。個人報告者の陳怡禎さんは「資料配布はデジタル化しているため、準備がしやすい一方で、参加者の顔が見えない、回線の問題で音声が途切れてしまう点は通常の学会にはないデメリットかと思います」とのことでした。懇談会、シンポジウム、個人・共同報告を通じて参加者の質疑応答はビデオ表示と挙手制が多い印象でしたが、チャットに意見を集約し、報告者に提出された質問を投げかけると、より円滑な議論が行えるのではないかと思います。(山田)

[秋季大会2日目(10月11日)]

◉定刻の午前10時より開始した2日目は,前日で感覚を掴みスムーズに研究発表や各ワークショップへの移動を行なうことができました。午前の部で参加したワークショップ5では,メディアの変容を踏まえて韓国だけでもなく日本を含め,国際的な問題として,今90年代という転換期を振り返ることに重要性があり有意義な議論であったと締め括られました。

今大会のポスター発表は1名のみで,今後の研究に活かすためのアドバイスや意見交換が博士の学生間でも行なわれ,若手研究者同士の交流は午後の研究発表の場においても見られました。そして春季大会から延期されたシンポジウム2では,今までなかなか取り上げられなかったパラリンピックを入口とした,障がい者とメディアについて議題が設けられました。障がい者・健常者の乖離が指摘され,問題提起者の熱い想いから討論が発展し,これを第一歩とした今後の議論に期待が寄せられました。

2日間を通して新しいタイムテーブルは参加するプログラムの選択肢の余地が増えたといった好意的な意見があり,各々オンラインの環境のメリットとデメリットを感じながらも全てのプログラムが内容の濃い2日間として秋季大会は幕を下ろしました。(片倉)

◉大会二日目も各会議内で多様なテーマに関する議論が行われました。午後のシンポジウム2ではパラリンピックに関する学術的関心を喚起することを目的とし、障害者に対する認識に、マスメディアがどのような役割を担うのかが議論されました。パラリンピック報道の問題、共生社会の創造、健常者と障害者の認識の乖離、ステレオタイプ化した障害者表象などが問題提起者から提示されました。討論者報告と合わせて共通の論題となったのは、エリート障害者選手と一般的な障害者、健常者と障害者の認識の乖離をメディアが助長している可能性についてでした。

この日の所感としては、各会議での意見交換に関して困難な部分もあったことでした。ワークショップの司会をされた千葉悠志さんは「オフラインの学会報告と比べますと、大きな支障があるとは感じませんでした。ただし、廊下での立ち話のような雑談が十分に行えないので、場合によっては研究の広がりが少し制限されてしまうこともあると思いました」と意見交換の難しさを述べられました。一方で、アルン・デソーザさんは「オンライン学会は時間や空間の縛りがなくなったことで、興味や関心のあるテーマへの移動が簡単になったと思います。報告の際や後日でも連絡はとりあえますので、オンラインの導入は好ましいです」と好意的な意見でした。(山田)

  

レポート・写真:  片倉葵(東京都立大学大学院博士課程)

山田尚武(日本大学大学院博士課程)

編集・構成: 37期学会事務局幹事 神谷説子(東京大学)