2020年春季大会オンライン試行 検討の記録 Our Path to the 2020 Online Spring Conference

慶應義塾大学にて開催が予定されていた2020年春季大会は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、4/18(土)の臨時理事会にて中止を決定しました。同時に、一部の内容をオンラインにて試行的に実施することとなり、学会事務局では情報収集並びに実施に向けた準備作業を進めることとなりました。今回、大会のオンライン化は初めての試みでもあり、ここにその検討経緯を記録として記すことといたします。

オンライン研究発表会の様子(6/13)

関連記事

>> 2020年春季大会の中止とオンライン試行について(4/18臨時理事会を受けての告知文書)
>> 【レポート】2020年度オンライン研究発表会・学会名称に関する懇談会
>> 2020年オンライン研究発表会・会員懇談会参加者アンケート結果


1. 学会大会オンライン化事例の収集

オンライン化の具体的な検討を始めた3月下旬の時点では、日本教育工学会、情報処理学会、言語処理学会など一部の学会で既にオンライン化の事例がありました。特に、日本教育工学会は、その検討経緯やノウハウなどをいち早く公開してくださっていたため、大変参考になりました。以下は事務局が当初参考にしたリンクになります。


2. 開催形態の検討

検討開始当初は、緊急事態宣言発出前であったこともあり、以下の2つの開催パターンについて、比較検討を行いました。

  1. オンラインのみ開催(実会場を使用しない)
  2. オンライン・実会場のハイブリッド開催

しかし、ハイブリッド開催を選択した場合、

  • 教室でのマイク・スピーカーと、オンラインでの音声をハウリングさせずに同期させる必要がある
  • 投影資料と、参加者映像の同期を考えると教室でのプロジェクター投影が2系統あることが望ましい
  • 質疑応答をハイブリッドで行う必要があり、司会の負荷が高い
  • オンライン接続と教室運営の両立のためにはサポートスタッフの増員が必要
  • 会場となる教室のネット回線環境が不明

などの不確実要因がかなり大きいため、事務局や執行部、理事会での議論の結果、オンラインのみの開催に落ち着きました。


3. 参加費用の検討

今回、春季大会としては正式には中止、オンラインは試行という位置づけだったため、発表は希望者のみ、聴講も無料(ただし学会員に限る)とすることが決まりました。
このため、事務局としては参加費徴収や領収証の発行などの会計周りの事務がほとんど発生せずに済んだことは幸いでした。これにより、オンライン会議の運営のみに集中する体制づくりができました。


4. オンライン接続ツールの検討

検討当初、Zoomのセキュリティ懸念が高まっている時期ではありましたが、以下のような比較表による検討を経て、Zoomでの開催が決まりました。

(参考)ツール選定についての検討資料(2020.4.12作成)

  • 事務局で複数のオンラインツールを比較したが、最も普及しており、かつ教育工学会、情報処理学会等で実績のあるZoomで開催するのが現実的と考えられる。
  • セキュリティ懸念と対策に関しては以下の3点がポイントとなるが、いずれも対策可能または許容可能な問題と考えられる。
懸念点内容対応策
Zoom爆弾部外者がZoom会議に参加することで、無関係な画像を見せられたり、資料に書き込みをされたりするリスクミーティングIDとパスワードが漏洩しなければ侵入されることはなく、Zoom自体の欠陥ではない。全てのセッションに個別のパスワードを設定し、参加者のみに直前に共有することで漏洩を抑止することが可能。(仮に侵入されても、ホストが強制的に退去させる機能が最近追加されている)
暗号化不備Zoomの通信自体は暗号化されているが、サーバー上のデータは復号化されている。ネットワーク上は暗号化されており盗聴のリスクはなく、サーバーへの直接侵入や当局による介入がない限りは漏洩しない。クラウドサービスとしては一般的な仕様であり、学会大会の機密レベルはそこまで高くないと考えられる。
個人情報漏洩自動インストーラーによって管理者の情報を取得したり、Facebookに無断で情報連携したりしていた指摘によりすでにZoom側で修正済みであり、今後は発生しない

東京大学情報基盤センター資料を参考に作成

なお、主要なオンライン会議ツールの比較は以下の通り。

メリットデメリット
Zoom・慣れている人が多い
・容量が比較的軽く速度が安定
・教育工学会・情報処理学会等で実績あり300人までOK(契約による)
・参加だけならアカウント登録不要
・高くはないが有料
・クライアントインストール必須
・暗号化方式が不完全と言われている
・普及率が高いため攻撃対象になりやすい
Cisco Webex・老舗の安定感・安心感
・ブラウザーアクセスも可能
・90日無料プログラム提供中
・1000人までOK(契約による)
・参加だけならアカウント登録不要
・使い慣れていない人が多い
・速度・容量はZoomに劣る
・Safariだと動かないケースあり、Chromeなら動作
Jitsi Meet・ブラウザー(Chrome)上で動作
・アカウント登録不要
・オープンソース
・使い慣れていない人が多い
・画面共有とカメラ画像を同時に配信できない
・人数が35人以内推奨
・速度・容量はサーバーに依存
Google Hangout Meet・ブラウザー上で動作
・Google Documents等の連携でコラボレーションがしやすい
・Googleログインが前提
・G Suite(法人・組織向けGoogleアカウント)内での利用が前提
→学会には不向き
・速度・容量はZoomに劣る
Microsoft Teams・Skypeでも接続可能
・Microsoft Officeとの連携が可能
・Microsoftアカウントが必要
・法人・組織内での利用が前提
→学会には不向き
・速度・容量はZoomに劣る

Zoomのアカウント契約

  • 学会としてProアカウントを1アカウント契約 (2,000円/月)100人までのオンライン会議開催が可能 →  この契約は大会後も継続し、理事会等オンライン会議で活用することにしました。
  • 上記常設アカウントの契約に加えて、6月1ヶ月のみ、大会用に4アカウント(いずれもProアカウント)を契約し大会後に解約しました。
  • セッションごとの参加予定者が100名を超えた場合は、人数追加オプションを契約する予定でしたが、実際には契約不要でした。
  • ウェビナーオプション(5,400円)は検討した結果、契約不要と判断しました。
  • 事前にホスト用のログインID/PWを司会に配布するために、各セッションごとにメールアドレスを新規作成し、個別にZoomアカウントを用意しました。
  • セキュリティ観点から画面共有をゲストに許可せず、ホストに限定するために、発表者も共同ホストに割り当てることにしました。
Zoomアカウント割り当て
アカウント0(事務局)バックアップミーティングのホスト
アカウント1(大会用)個人発表1の司会者
アカウント2(大会用)ポスター発表の司会者
アカウント3(大会用)個人発表2の司会者
アカウント4(大会用)会員懇談会の司会者

>> (参考)オンライン研究発表会のプログラム


参加申込フォーム
参加申込フォーム

5. 参加申込対応

参加申込の受付

  • 参加申込フォームはGoogle Formsで作成し、メルマガ・ウェブサイトで会員告知しました。
  • 円滑な運営と、Zoom URLの送付管理のため、参加の締め切りを2週間前に設定し、直前の申し込みは受け付けないようにしました。
  • 参加申込締め切り後、申込者が会員かどうかを事務局で確認しました。

参加者専用ウェブページの設置とZoom会議室の告知

  • 推測できないランダムなURLで、学会ウェブサイト内に参加者専用ウェブページを作成しました。このURLは、参加申込をした会員にのみメールで告知され、念のため閲覧にはパスワードが必要な設定としました。
  • この参加者専用ウェブページに、当日プログラムと、ZoomのミーティングIDを含む会議室リンクを掲載しました(ただし、ZoomのパスワードはURLに埋め込まない設定にしました)。
  • Zoomのパスワードは、この参加者専用ウェブページには掲載せず、別途参加者にメールで送付しました(転送厳禁の旨を徹底しました)。
  • これらにより、関係者以外の参加を抑止できると考え、当日の途中入退室があった場合にホストの操作が煩雑になるZoomの待機室は利用せず、ミーティングIDとパスワードを知っていれば入室できるようにしました
    (多少のリスクはありましたが、これによりホストが当日議事進行に集中できたので、結果的にはよかったと思います)。
  • 参加者向けのZoomの接続マニュアル等は、第26回大学研究教育フォーラム実行委員会にてご活用のマニュアルをCCライセンスに基づき再利用させていただきました。非常に丁寧なマニュアルで大変助かりました。

>>(参考) 参加者専用ウェブページ(Zoomリンクは削除済み)


6. 当日の発表フロー

  • 各発表では、司会がホストとなって、Zoomのミーティング運営と進行を行いました。今回はメインとサブの司会を配置し、サブの司会は共同ホストとして設定し、接続面での補助を行う体制としました。
  • ゲストが画面共有により妨害等を行うことを抑止するため、画面共有はホストのみに限定し、司会者が接続時に発表者を共同ホストに設定することにしました。
  • 司会者と事務局、発表者は事前にZoomの接続練習の時間を設け、画面共有の段取りや時間管理の方法等をすり合わせました。
当日の個人発表の様子

(参考)当日の進め方マニュアル

  1. 司会がホストとなり、Zoomミーティングを開始する(サブ司会は共同ホストとして接続等の実務をサポートする)。
  2. 冒頭5分間は、全体の流れや注意事項、Zoomの使い方やマニュアルの説明を行う。説明が終わったら、司会と発表者以外の音声をミュートする(ホストが強制ミュート可能)。映像はなるべく出してもらうよう案内する。どんな人が参加しているのかお互いわかる配慮があると良い。
  3. 司会の合図により、発表者が画面共有を行い発表を開始する(画面共有は必須にぜず、事前配布資料で顔を見せながら発表することも可)。
  4. 司会は、手元の時計等で発表時間を管理する。5分前に手元のスマホ等のアラームで通知(司会の裁量に任せる)。
  5. 発表が終わったら、司会が質疑応答にうつる旨をアナウンス。発表画面共有を外してもらい、ギャラリービューで見渡せるように促す。
  6. 参加者は、Zoomの「手を挙げる」機能を用いて意思表示し、司会の指名によってミュートを解除、質疑応答を行う。必要に応じてチャットを補助的に用いる(サブ司会が適宜柔軟に対応する)。
  7. 質疑応答は、残り時間を見て司会が「あと○名です」と示し、時間内におさまらない質問やコメントがもしあればチャットに残してもらうように案内する。チャットの内容はサブ司会が記録し、発表者にフィードバックする。
  8. 司会が終了を指示したら、発表者は画面共有を切断し、カメラの前でみんなが拍手するよう司会が促す。
  9. スケジュールにしたがって、司会が次の発表者へと進行する。
  10. すべての発表が終わり時間に余裕があれば、司会の判断でチャットの内容を振り返る。
  11. 終了後の交流のため、プライベートチャットでの連絡先交換などを案内し、時間を区切って終了。原則として発表者は司会が終了するまで退出しないようにする。

当日を終えて

当日のセッションは概ね上記の流れ通り、司会の皆様の的確な仕切りもあり、スムーズに進行できました。Zoomのテクニカルな問題も幸い発生せず、オンライン試行は成功裏に終了することができました。事後の参加者アンケートでも非常に好評な結果を得ることができました。

運営にご協力いただいた司会の皆様、企画委員会の皆様、そして発表者、参加者の皆様、さらには執行部、理事会の皆様にこの場をお借りして改めて感謝を申し上げます。


文責:
日本マス・コミュニケーション学会 第37期事務局幹事
宇田川 敦史(東京大学大学院)