第38期第25回研究会「『公文書&検証取材型』調査報道の可能性と限界〜情報公開制度を駆使した政策決定過程の解明事例から」(ジャーナリズム研究・教育部会)(12/16開催)

■日 時:2022年12月16日(金)15:30~
■場 所:専修大学神田校舎7号館7階 772教室 〒101-8425 東京都千代田区神田神保町3-8
     ※ハイブリッド配信予定 URLなどは申し込まれた方にお知らせします
■問題提起者:日野行介(ジャーナリスト)
■討論者:小黒純(同志社大学)
■司 会:澤康臣(専修大学)

■企画趣旨:
 社会のデジタル化、メディア化が急速に進展する中、調査報道の分野も新たな広がりを見せている。古典的とも言える調査報道の一類型は、各報道機関が組織内で培ってきた人脈を活かして、捜査当局の幹部や有力政治家から情報を取ってくる手法(人脈型)である。その一方、膨大なデータを収集し、デジタル解析して新たな事実を浮かび上がらせる手法(デジタル解析型)に注目が集まっている。中でも、(OSINT)は、インターネット上に出回る公開情報を集めに集め、解析に解析を重ね、新たな事実を発掘していこうとするものだ。例えば、ロシア軍によるウクライナ侵攻においても、調査報道機関「ベリングキャット」などが独自の調査で、国際条約で禁止されている兵器や爆弾が用いられていることなどを世界に伝えた。国内では日経新聞のOSINTの取り組みが際立っているように見える。

 そして、3つ目の類型が、①公表資料(公開情報)の分析 →②情報公開請求による公文書の取得 →③関係者への聞き取り取材 →④新事実の発掘 という流れに沿って行われる手法である。決して新しい手法ではないが、上記の古典的な「人脈型」とも、「デジタル解析型」とも異なる。つまり、社内的立場や人脈に依存するわけではないし、ビッグデータを分析するわけでもない。ここでは「公文書&検証取材型」と名付けておく。

 問題提起者(日野)は大手紙の現場記者として、さまざまな調査報道を手掛けてきた。とりわけ、2011年の福島第一原発事故をめぐる諸問題を、10年以上追い続けてきた。紙面では数々のスクープを放つとともに、『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)、『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)などの著作にまとめ、世に問い掛けてきた。主な対象は、行政の政策決定過程であり、その解明と監視が、手掛けてきた調査報道の目的である。

 その手法は一貫して「公文書型」だった。疑問が生まれれば、情報公開制度を駆使して、公文書を請求する。決定後は、何が開示され、何が開示されなかったかを見極める。それだけでは、ジグソーパズルのピースはすべて埋まらない。ピースを詰めていくには、関係者の証言が欠かせない。聞き取り取材の過程で、独自に入手した公文書(時に独自の公文書入手が取材の端緒となることもある)も合わせて、「公表」、「公開」、「入手」という3層の資料分析と関係者の聞き取りを組み合わせて、意思決定過程を解明して、ようやくブラックボックスの蓋が開く。問題提起者はただただ、この手法で調査報道の実践を積み重ねてきた。

 本研究会では問題提起者が、調査報道にあたっての基本姿勢を説明した後、近著『調査報道記者 〜国策の闇を暴く仕事』(明石書店)の一部を紹介しつつ、「公文書&検証取材型」の有効性、普遍性について議論を深めていきたい。特に、調査過程の中核を占める情報公開制度の活用法と問題点について掘り下げる。また、「公文書型」を進めるに当たって、どのような「壁」が現れるものなのか、その「壁」を破っていくために求められる条件は何なのか、豊富な実例を踏まえて、解決法を模索する。

 問題提起者は、上記の手法を実践する中で、調査報道が成立する条件として「執念(粘り強さ)」と「狂気(真正な悪を見抜く使命感)」という、取材者の心構えを説いている。このことは、いわゆる「精神論」なのか、それとも違う種類のものなのか。報道現場、学術研究の両方の経験を有する討論者の視点からもそれを吟味検討し、参加者からの忌憚のない意見を受けつつ、議論を深めていきたい。

 ジャーナリズム研究の中で、調査報道に関する分野は全体として途上である。本研究会を通して、第3の類型「公文書&検証取材型」の可能性や限界が明らかになれば、調査報道の応用範囲が広がるとともに、少ない人員でも調査報道の担い手となり得るという可能性が高まると期待される。調査報道の実践と研究は密接に連携することで、双方の発展をもたらすものだと言える。

■申込方法:
次のリンクよりフォームに記入し、送信をお願い致します。
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■問い合わせ
澤康臣(ジャーナリズム研究教育部会、専修大学)

sawa.yasuomi@nifty.com
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