新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大の影響で2020年度の日本マス・コミュニケーション学会の春季大会は中止となってしまいましたが、開催されるはずだった初日の6月13日(土)にオンライン研究発表会が試行されました。春季大会にて報告予定であった方々のうちオンラインでの発表を希望された個人・共同発表7件、ポスター発表1件の報告が行われ、また研究発表会に続いて学会の名称に関する懇談会が開催されました。全体を通じて延べ98名の会員が事前登録され、当日は学会事務局が準備したオンライン会議ツールZoomのミーティングルームにそれぞれが自宅や研究室などから集いました。既にオンラインでの講義やゼミなどを経験済みの会員もいらっしゃったかと思われますが、土曜日の午前10時にパソコンやスマートフォンで接続すればそこはもう学会の場、という状況は新鮮だったのではないでしょうか。
[個人・共同発表・ポスターセッション]
午前中の個人・共同発表1のセッションでは、松井広志会員(愛知淑徳大学)・河炅珍会員(広島市立大学)の司会のもと、4つの報告が行われました。昼休みの時間帯のポスターセッションをはさみ、午後の個人・共同発表2のセッションでは、谷本奈穂会員(関西大学)・前田至剛会員(追手門大学)の司会進行のもと、3つの報告が行われました。登壇者が自らスライドを画面共有しながら発表し、その後それぞれ約60名の参加者との間で活発な質疑応答が聞かれました。唯一共同報告をされたグループは1名が画面共有を担い、メンバーが交代で発表するというチームプレーで、その様子は研究調査中のチームワークをも垣間見るようでした。質疑応答は口頭で行われましたが、登壇者の質問時間のあとにチャット機能を使ってのコメントが寄せられることもありました。
研究報告された方々からいただいた感想をご紹介します:
- これまで1回の学会出張に5-10万円程度の旅費がかかっておりました。そのため、複数の学会のプログラムを比較検討し、間引きながら参加している実情がありました。若い会員にとっての負担感、また、学会で得られる成果を考えると会員が減っている現状は理解できます。その意味で、今回のオンライン学会は燃費がよく、エコな試みでした。もちろん対面であることの意味はあると思いますが、研究成果の公表、情報交換と言う意味では、オンラインでも十分目的は達成できると思います。研究発表会後の「懇親会」も、これまでの形とは違いますが、とても真面目な討論会でよかったと思います。地方在住者としてはコロナ収束後もオンラインでの発表会を一つのメディア文化の可能性として継続してもらえると嬉しいです。 重ねて、今回ご尽力いただいた学会スタッフの皆様に感謝申し上げます。(山口県立大学 吉本秀子会員)
- オンライン発表会のためには、通常の学会発表とは異なる準備も必要となりましたが、学会に集う人々が望みさえすれば、社会が大変な状況の中でも議論の場をつくることができるという気づきと経験は貴重なものであり、発表会参加中は、学会の研究活動の可能性が少しずつ広がっていく現場に立ち会っているような印象を持ちました。(東京大学 鄭佳月会員)
- オフライン学会に参加するに伴う様々な手間を省けた面ではすごく助かりました。発表する際には画面をとおして参加者の顔が身近な分、より緊張してしまったかと思いますが、大変な状況の中でも議論の場を設けていただき、また多くの方に参加していただき心より感謝いたしました。色んな面ですごく貴重な経験になりました。(東京大学 李ミンジュ会員)
- 私は学会の経験が今までなく、比較することができませんが、オンライン発表会には落ち着いた雰囲気を感じまして、発表しやすかったです。質疑応答の時には、皆様の顔を見れて、身近な感じでコミュニケーション取れてよかったと思います。とても良い経験になりました。コロナウイルスという状況の中で、発表会をオンラインで開催し、発表をする機会をいただいたことに感謝を申し上げます。(東京大学大学院 デニソヴァ・アナスタシア会員)
初の試みとなったオンライン研究発表会が盛況のうちに終わることができたのも、準備を重ねてこられた企画委員会の方々のご尽力のおかげです。それぞれの大学でオンライン授業に取り組まれている中とはいえ、研究発表会の進行は対面とは異なる気配りが必要となり、画面上には見えないご苦労もあったかと存じます。本当にありがとうございました。学会事務局としてもリアルな学会とは異なる準備作業となりましたが、今回の試行はさまざまな面において今後の研究会などのあり方の選択肢を増やすきっかけとなったように感じられました。
[会員懇談会]
オンライン研究発表会の最後のセッションは「学会名称に関する懇談会」(以下、「懇談会」)でした。懇談会は、オンライン研究会に先だって行われた「学会名称変更に関するパブリック・コメント」(以下、「パブリック・コメント」)の結果を踏まえ、会員同士で今後の学会のあり方を議論する場として設定されました。
懇談会に対する関心は高く、若手からベテランまで幅広い年齢層にまたがる57名の会員が参加しました。懇談会ではまず、吉見俊哉会長から学会名称に関する議論を行う意義が述べられ、その後、津田正太郎理事よりパブリック・コメントの概要および、賛成・反対それぞれの意見、名称を変更する場合の候補などについて紹介がされました。
続いて参加者による議論の時間へと移り、土屋礼子理事の司会のもと活発な意見交換が行われました。例えば若手からは、メディアに関する包括的な学会として本学会を位置づけるような名称になれば、様々な研究者のネットワークの場として有用なのではないかというコメントが出されました。他にも、学会員の減少などの問題は日本のアカデミア全体の問題としてあるため、学会名称を議論すると同時に学会組織の改革も合わせて行うべきだという意見が述べられました。
今回の議論を踏まえ、理事によって構成される学会名称検討チームは秋季大会で再び懇談会を開く予定です。今回参加された方もそうでない方も、学会をより良くしていくための場として次回の懇談会に参加していただきたいと思います。
(なお、オンライン研究発表会・会員懇談会参加者アンケート結果はこちらをご覧ください。)
文責:
日本マス・コミュニケーション学会 第37 期事務局幹事
神谷説子(東京大学大学院)・近藤和都(大東文化大学)